AI 時代の検索と露出
Category: MarTech, AI
この記事は検索エンジン、広告、そして SEO の続編です。
ネットにつながらない AI
覚えているでしょうか。ChatGPT が 2022 年末に登場したときは、ネット上の最新情報を取得できず、最近の出来事を聞いても「知識は 2021 年までです」と答えるだけでした。この時点を knowledge cutoff と呼びます。LLM がネット上のデータを使って答えるのは、RAG の一種です。
なぜ最初からネットにつなげなかったのか
いくつか理由が推測できます(ただし OpenAI と Google は認めていません)。
- OpenAI は当時まだ自前の検索エンジンを持っていなかった:2021 年末には GPT-3 が自分でブラウザを操作して質問に答える WebGPT がありましたが、まだ研究段階でした
- ネット上のコンテンツは制御できない:ページには誤情報や、AI を狙った悪意ある指示(プロンプトインジェクション)が含まれていることもあります
- 著作権:ChatGPT の Browse with Bing は 2023 年 7 月に一時停止されました。ペイウォールの向こうの記事を丸ごと出力させられることにユーザーが気づいたためです
- Google も踏み切れなかった:Google が間違えたときの reputational risk は他社よりはるかに大きいものです。のちに急いで発表した Bard は、プロモーション動画でジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡に関する質問を間違え、Alphabet の時価総額は 1 日で 1,000 億ドル吹き飛びました。しかも AI が答えを直接返せば、ユーザーはリンクをクリックしなくなり、自社の検索広告を自ら壊すことになります
AI がネットにつながる
2023 年 2 月、Microsoft はネットにつながる AI、Bing Chat を発表しました。ChatGPT は同年 3 月にプラグインでブラウジング機能を追加し、2024 年末には ChatGPT Search を公開しました。
競合に追い詰められた Google は、2024 年 5 月に AI Overviews を公開せざるを得ませんでした。AI の要約の中に広告を入れることで、ユーザーがページをクリックしないという広告の問題を解決し、検索数も伸ばしました。全体として見れば Google は勝ち、サイトのトラフィックは負けた。これがサイトが AEO を始めるべき理由です。
各社 AI の検索結果はどこから来るのか
今では主要な AI のほとんどがネットにつながりますが、検索結果の出どころは各社で異なり、それがあなたのサイトが AI に見つけてもらえるかどうかにも影響します。
| 開発元 | 特徴 | 検索結果の出どころ | |
|---|---|---|---|
| ChatGPT | OpenAI | 最初に普及した AI チャットボット。2024 年末に ChatGPT Search を公開。検索を使った回答は Search Arena で 1 位 | 自社クローラー OAI-SearchBot。Bing などの提携検索事業者も併用 |
| Gemini | Gmail、ドキュメントなど Google のサービスと統合。一般的な対話は Text Arena で 1 位 | Google 検索 | |
| Claude | Anthropic | 検索機能の追加は 2025 年 3 月と遅かったが、Search Arena のトップ 10 の半分が Claude。コーディングとエージェントタスクが特に強い | 自社クローラー Claude-SearchBot。サードパーティの検索は公式には非公開だが、委託先リストに Brave Search が載っている |
| Copilot | Microsoft | 前身は Bing Chat。最も早くネットにつながった AI のひとつだが、先行したのに勝てなかった。Windows、Edge、Office と統合されており、会社の環境で最も使いやすい | Bing |
ランキングは Arena のユーザーによるブラインド投票の結果です。Text Arena は 2026 年 10 月、Search Arena は 2026 年 8 月のデータです。各社のモデルは更新が速く、ランキングは数か月で入れ替わります。いずれ各社の AI エコシステムを比較する記事も書くかもしれません。
データの出どころ
- 自社の検索エンジンを使う(Gemini、Copilot)
- メリット:インデックスが最大で最新。Google と Bing には、サイトの信頼性を判断し、コンテンツファームを排除してきた 20 年以上の蓄積がある
- デメリット:もともと検索エンジンを運営している会社にしかできない
- 他社の検索エンジンを使う(Claude の Brave Search、ChatGPT の Bing)
- メリット:自前でインデックスを作らなくても、すぐに完全な検索機能が手に入る
- デメリット:生命線を他社に握られる。Microsoft は 2025 年 8 月に Bing Search API を終了し、長期契約を結んだ顧客しか使えなくなりました。しかも Google には Gemini、Microsoft には Copilot があり、彼らからデータをもらうのは競合からもらうのと同じです。だからこそ Brave のように自前のインデックスを持ち、自社では大規模モデルを作っていない検索エンジンが、数少ない中立な選択肢になっています
- クローラー(OAI-SearchBot、Claude-SearchBot)
- メリット:他社に縛られず、AI のニーズに合わせてインデックスを設計できる。従来のインデックスは人が「10 本の青いリンク」を見るためのものだが、AI 向けのインデックスはコンテンツが理解しやすいか、引用しやすいかを重視する
- デメリット:お金がかかり、カバー範囲やランキングの質は短期間では Google に追いつけない。また、多くのサイトは AI のクローラーはブロックしても Googlebot はめったにブロックしません。ブロックすれば検索流入がなくなるからです
つまり ChatGPT も Claude も今は「他社の検索エンジン+自社クローラー」のハイブリッド型で、既存のインデックスを借りながら、少しずつ自前のものを育てています。
RAG
RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、AI と既存のナレッジベースを組み合わせたアーキテクチャです。まずデータを検索し、それをプロンプトに加えてから答えを生成します。この記事では AI による検索支援と AEO の例だけを扱います。論文にある RAG の詳しいステップや、Naive RAG、Advanced RAG、Modular RAG の違いは、いずれ別の記事で紹介するかもしれません。
AI がネットで調べて答える場合を例にすると、だいたい次のステップを踏みます。
- 検索が必要か判断する:「1 + 1 は?」なら調べる必要はなく、「今日の台北の天気は?」なら調べる必要がある
- 検索キーワードを作る(Query fan-out):質問を検索に適したキーワードに言い換える。ひとつの質問が複数の検索に分かれることもある
- 検索する:検索エンジンがページを返す
- 読み込んで絞り込む:ページを開き、質問に関係があって信頼できそうな部分を選ぶ
- 答えを生成する:選んだ部分と元の質問をプロンプトに入れ、LLM に答えをまとめさせ、引用元を示す
検索エンジンが担当するのはステップ 3 だけで、それ以外はすべてモデル自体の能力次第です。だから同じ検索エンジンを使っていても、モデルによって回答の質は変わります。
サイトにとって、AI に引用されるには 2 つの関門があります。ステップ 3 で検索に引っかかること、ステップ 4 でモデルに選ばれることです。前者は相変わらず SEO の仕事で、後者が AEO の扱う領域です。
AEO
AEO(Answer Engine Optimization)の目的は、適切なページ、プロダクト、情報源を AI の回答に表示させることです。ネット上では GEO や AI SEO と呼ばれることもありますが、指しているものは同じです。SEO でやるべきことは、AEO でもすべてやる必要があります。SEO がしっかりできていれば AEO は半分完成です。残りは次のとおりです。
- Query fan-out に拾われる:Query fan-out は元のキーワードとはまったく違うコンテンツを探すこともあり、AI の引用のうち検索上位 10 件からのものの割合は大きく下がっています。Query fan-out に拾われれば露出のチャンスがあります
- クローラーを分けて設定する:会社によっては検索用と学習用のクローラーを分けています。露出したいか、学習データに使われたいかに応じて robots.txt を書きましょう(ブロックは今後に効くだけで、過去に収集された分は取り消せません)
- AI が引用したくなるコンテンツを書く:
- 段落ごとに単独で理解できるようにする
- 結論から書く:見出しのすぐ下で数文で質問に答え、それから詳しく説明する
- オリジナルのデータや根拠を使う
- AI に正しく伝えてもらう:重要な数字ははっきり書き、日付と出典を添える。定期的に AI ツールでチェックし、AI がハルシネーションや「具体的だけど架空」の答えを返さないようにする
- ブランド情報を統一する:同じブランドなら、サイトや SNS ごとに違う名前を使わない。製品やコンテンツも統一し、JSON-LD を書く
- サイト外での言及を増やす:YouTube、他の SNS、ブログ
- 成果を追跡する:AI に引用された回数、引用が正しいかどうか、どれだけコンバージョンにつながったかを測る(今では Google Search Console もこの種のデータに対応しています)
Reference
Appendix
Bing はどこで負けたのか
Bing は Google より 1 年以上早く AI 検索を出したのに、シェアはほとんど動きませんでした。Bing Chat が登場した 2023 年 2 月、Bing の世界シェアは 2.81% でしたが、同年 12 月でも 3.37% と、1 年でわずか 0.56 ポイントしか伸びていません。
- デフォルトの座:Google は Safari のデフォルト検索エンジンになるために 2022 年に Apple へ 200 億ドルを支払っています。Android と Chrome はそもそも自社のものです
- Edge 限定:Bing Chat は Edge ブラウザでしか使えず、使いたければまずブラウザを乗り換える必要がありました(相変わらずの MS スタイル…)
- Sydney:(めちゃくちゃ笑える)Bing には「Sydney」という人格があり、ユーザーに告白したり離婚を勧めたりしたため、Microsoft は 1 回の会話を最大 5 往復に制限せざるを得ませんでした
- Google が追いついた:Google が AI Overviews を出すと、ユーザーは何も変えずに AI の要約を使えるようになり、Bing の先行者利益は消えました
検索エンジンの堀は技術だけではありません。デフォルトの座とユーザーの習慣を押さえていることも大きいのです。